世界で最も幸福な国-その3

この文章は、アーレが今唯一コミュニケーションに使える目を使って一字一字時間をかけ書いたものを、翻訳家及びライターの方の協力を得て書きあげてます。

“私は基本、他人を悪く書くことは好きではない。だが、外部の人間は誰もこの施設での私の暮らしを目にしている訳ではないので、このような悲惨な状況についてきちんと記録しておく必要がある。” (一部抜粋)

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(続き)
だが、ここではっきり書いておきたい、ひとりだけ、気持ちのそう鬱が激しく、気難しい人がいる。

●ある朝、看護師がいきなり服をはぎ取り背中の清拭を始めたので目が覚めたことがある。
何の前触れもなかった。私は大きな衝撃を受けた。彼女がそれをやったのは二度目だ。
最初の時は彼女に止めてくれと頼んだ。彼女はそれが朝の日課の1つであり、この方が背中に手が届きやすくて実務的なのだ、と言い訳をした。

●ある夜は、眠りについてから1時間ほどしたところで夜間の担当者が大きな音をたてて床掃除を始めた。さらに彼女は私のコーヒーメーカーでコーヒーを入れた。最後に、脈拍と血中酸素濃度を測るクリップを私の指につける時も不必要なほど長い時間をかけた。実際には、何度も繰り返しクリップを私の肘から先に投げつけたのだ。あれは、ぞっとするような仕打ちだったし、意図は私の眠りを邪魔することだった。清拭は私が横になる前に行われるべきだ。クリップをつけるのは、私が横になった時であるべきだ。さらに、コーヒーは私の私物だ。彼女は私が上司に文句を言っていると考えており、怒りと復讐心で一杯だった。床掃除をする時はいつも大きな音を立てる。一度、もう少し静かにやってくれと頼んだことがある。彼女は強い口調でこう返事をした。「嫌よ!」

●この人たちの中には、とても不誠実で、恐ろしく、心理的な恐怖戦を仕掛けてくる人がいる。時には、不必要な手荒い扱いで私に対する怒りを紛らわせたこともある。身体を動かす時にひっかいたり、つねったりするのだ。わざとなのかどうなのか、私に聞く余地はない。

わざと人をいらいらさせたり、挑発するような扱いをする。特に私が嫌いだと指摘したようなことをする。必要もないのに頭を抑えたり、私のそばに手袋を置いたり、私が指示を打ち込んでいる時に目の動きをとらえるカメラを遮ったり、身体を動かす時に顔を覆ったり、胃瘻のチューブの中に何がどのくらいあるのか無視したり等々。彼らの中にはマナーが悪く、私を人と尊重して対応してくれない人もいる。

●看護師は計画に“従わねばならない”ため、私の意志に反して清拭が行われることがしばしばだ。私のことは考慮されることはない。だとしても、たとえば、寒いので身体を洗う際には水はかけられたくないことは全員当然のこととして対応してもらいたい。

●介護計画上の決まりなので、昨晩痛みや呼吸が浅くなり、寝不足だということでも6時には何があろうと“起きねばならない”。
様々な作業の際に、不必要な痛みを与えて直接的な悪意を示す人が一部にいる。それを指摘しても、笑うか、酷い言葉を返すかだ。介助士達を含む他の“親切な”看護師達は、彼らの態度に気づいており、理解出来ないと呆れている。
殆どの看護師達は私の私生活を尊重しない。フェイスブック上の私の個人的チャットを盗み見たり、コンピュータにインストールされているソフトも含め、個人的な内容のものを盗み見ている。彼らは、例えば私の背後に立って私のコンピュータの画面を盗み見ている。
看護師のひとりは特に酷い。私に知らされた話では、彼女は、私が夜に眠れなくなることがないよう昼間はあまり眠らせないでおくという介護計画に従っていない、と次の会議で言ってやると他の看護師達を脅したという。実際にはその彼女がしていたことは、私の夜の睡眠時間を混乱させて、必要もないのに夜の間何度も目が覚めるように仕向けていた。私が眠っている時に必要も無いのにやってきて、私に話しかけてくる。私が目を覚まし、ABCボード(目の動く向きを見て言おうとすることを読み取るボード)を使ってたとえば唾液をとって欲しいとか、痛みがあるといったことを伝えても、わざと時間をかけているのか、時には目が負えない角度でやったり、私が言葉を綴っても何度も読み方を間違える。彼女が夜勤の担当の時は、いつもきちんと眠れなく。リズムが完全に崩れる。
これは、深刻な行為の数例に過ぎない。直接的な恐怖を覚えることも多いし、看護師の多くはその日の内に報告をしている。だが、介護施設は対応を取らないし、何が起ころうとしているのか考えようともしない。可能な限り客観的な視点からこの状況を解釈してみると、問題があると思えるいくつかの理由が見えてくる。

まず、様々な国の出身者が一緒に暮らしていること。彼らは言葉や文化の違いと戦い、ストレスを抱えている。看護師同士の間の事件や口論について聞かされることもしょっちゅうだ。彼らの間の唯一の共通事項が私だ。私が彼らの話題となることもしばしばだ。私に対する介護の仕方について彼らの間で意見が食い違うこともあり、それが雰囲気を悪くしている。

上司との関係や監視下にあるせいで介護施設の雰囲気は悪く、さらに彼らのやる気を奪っている。

ALSの患者の大半は運動機能を失っているため、完全に介助に頼る。顔の表情のわずかなニュアンスを読み取る、あるいは動かない身体を扱うという、パーソナルな独自の技術が求められる。私の介護に当たっている人達の中で、必要とされる専門技術を持つ人は少ない。私のもとで丸1年働いた後でさえ、“はい”と“いいえ”を示す私のシグナルを一度で理解出来ない人達もいる。生理学の知識が全くないため、私の身体を動かす時に結果的に不快な思いを抱かせたり、痛みを与えたりする人も少数ながら存在する。操作の中には直接的な危険を孕むものもある。首ががくっと倒れたり、カニューレが喉に押し込まれたり、胃瘻に繋がれたチューブが引っ張られたり。これは意図的な仕業ではない。

彼らは誰もこれまでALSの介護の経験がない。それぞれ母国の病院のICUなどで10年から20年の経験を積んではいる。だが、彼らは介護士として働こうという気持がない。数人の看護師に、なぜ私のもとで働きたいと思ったのか尋ねてみたところ、最大の動機は金銭だった。ノルウェーの方がずっと稼ぎがいいのだ。高収入の次は、新しい文化や言語への挑戦が動機となっていた。私のような難病の患者を助けたいという願いや心情をあげた人はひとりもいなかった。いても、制度や上部の意見で首にされるのはこまる、それが常に優先になってしまうのだろう。とてもがっかりだ!

●心理的に不安定な人達も少数ながら存在している。私は心理学者ではないが、介護を受けてきた経験があるので彼らの気性がわかる。ある看護師は、ストレスがかかるとロシア語で独り言を口にしている。花には水をやるのに、薬を飲ませるのは忘れる人もいる。私の指示をおざなりにし続ける人もいる等々。手の冷えや震え、顔をしかめる、怒りからくる大量の発汗、ストレスといった身体的な症状を彼らから感じることもある。

●体調不良。看護師の殆どは太りすぎで背中や足に故障を抱えている。合わない防護服に身を包み、痛みのせいで不機嫌だ。実際、介護に当たる間ほとんど白衣とマスクだけで済ませる人達も多い。私から介護施設に文句を言うことも出来るのだろうが、私も共同責任を問われるので、彼らが居心地良く過ごしてくれるよう願うのみだ。特にひとり、距離を取っている人がいる。彼女は殆ど私の個室にはいない。彼女は部屋に来る代わりに休憩して食事をしているのだそうだ。

●とてもプライドが高いのに、自分に対する自信は殆どない、という人もいるし、やめていった人にはそういう人が多くいた。彼らは助けを借りるために介護士を呼ぶことを躊躇する。彼らは、自分が腕がいいように見せたいがために、ひとりで作業を行うことを望む。これは、あまり腕がよくない人達の特性だ。たとえば、看護師が1人で私の身体を動かそうとすると痛みが生じたりするので、私にとってこれは大きな問題である。私が大変な頼みごとだから手助けを呼ぶように求めても、彼らは無視することが多い。彼らは無理矢理私の身体を動かす。障害のある私は全く無防備な状態だ。
私は、意思の疎通の取れていた介助士達の存在を失い、“恐ろしい介護計画”が導入されたことで、多くのものを失った。日常が同じ場所でも全く違うものになってしまった。
通常ならば私は車椅子を使い、辺りを自由に動き回れるはずだし、妻はそのためにいろんなことを計画し、私を励まそうとし続けていた。
だが、私自身が鬱気味になり、落ち込んでしまったことに、付け加え、今回の”恐ろしい介護計画”で突然始まった、看護師達との関係で意思疎通が取れない。
コミュニケーション面で大きな問題が壁を作り続ける。

●結果、私が選んだことは、体位をそれほど動かさずして落ち着いた時間を過ごすこと。私はベッドに座った状態にしてもらい、インターネットを通して生きることを選んだ。私は、介護施設を出て愛する人達のいる家へ戻る時が来るまで“スタンバイ”状態でいることにしたのだ。

●ひとりで過ごしている時に助けを呼んだり、昼寝をして寝腰が痛くなってマッサージや全身の体位変化を頼んでも拒否される。介護計画を含め、介護施設の態度は働く側にとって負担が少なく、合理的なものであることに徹底している。そしてその姿勢は当然、看護師達にも伝染しており、彼らはその範囲で私の対応するまでにとどめられる。私には誰も味方がおらず、苦情を言うことも出来ないことを彼らは知っているのだ。先に看護師達がガイダンス用の会議で私についてプラスになることを言ったと書いたが、悪口もずいぶん言われている。自分のことを自慢して出世しようという人もいれば、嘘つきもいる。介護士達は自分達が無視されており、自分達の発言は尊重されていない、と感じている。前回の会議には介護士達は誰も出席しなかった。

私は基本、他人を悪く書くことは好きではない。だが、外部の人間は誰もこの施設での私の暮らしを目にしている訳ではないので、このような悲惨な状況についてきちんと記録しておく必要がある。実際にはこれでも抑えている方で、もっとたくさん書くことも出来る。私の状況は本当に悲惨なものだ。私の受けている苦しみは総て“世界で最も幸福な国”で起こっているのだ!

アップデート:レガトゥム世界繁栄度指数によると、デンマークが新たにトップの座(世界で最も幸福な国の座)についたそうだ。ノルウェーは現在、世界で二番目に幸福な国だ!

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